「技術・人文知識・国際業務」はどんなビザ
在留ビザ(在留資格のこと:以下在留ビザ)「技術・人文知識・国際業務」とは、どのようなビザなのでしょうか?
このビザは外国人の方が日本で働く為に必要となるものですが、職務内容については制限され、どのような職種でも良いという分けではございません。外国人ご本人と企業側にはそれぞれクリアすべき条件があり、丁寧に確認する必要があります。就労系の在留ビザの中では、取得される方が一番多いビザとなっており、当事務所でも申請する機会が多いです。
「技術・人文知識・国際業務」どんな条件
それでは、どのような場合に「技術・人文知識・国際業務」の条件に該当するのでしょうか?
外国人ご本人の条件
次のいずれかに該当していること。
- 学術的素養を持っている、つまり大学や専門学校等で自然科学や人文科学の分野の知識を専攻し修了(卒業見込み可)している。
- 実務経験が10年以上ある。この年数には、大学,高等専門学校,高等学校,中等教育学校の後期課程、専修学校の専門課程で、関連する技術又は知識の科目を専攻した期間を含めることが可能。
- 外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする分野で、3年の実務経験がある。
一部例外はありますが、外国人の方がこちらに該当しているかどうかを、まずは確認することになります。当てはまらないとなると「技術・人文知識・国際業務」では在留ビザの申請が出来ないことになるからです。
企業側の条件
- 職務内容が、外国人ご本人の学歴や実務経験と関連した知識を有するものであること。
- 外国人の方と労働についての契約(雇用・請負・派遣など)を結ぶこと。
- 他の日本人の従業員と同額以上の給与水準であること。
- 経営状況が、外国人の方を継続して雇用できる安定性を持つこと。
以上が在留ビザ「技術・人文知識・国際業務」の企業側の条件となります。
外国人ご本人と企業サイドの条件をすべてクリアしなければならず、申請の際は、この他に外国人の方の素行等についても審査されます。
次にそれぞれの項目を細かく見ていきましょう。
「技術・人文知識・国際業務」学術的素養
「技術・人文知識・国際業務」ビザでは、外国人の方の学術的素養が求められます。審査の上で学術的素養があるとして認められる学校と専攻科目です。
「技術・人文知識・国際業務」卒業した学校
外国人の方の学術的素養については、大学又は大学同等以上の学校を卒業している必要(卒業見込み可)があります。大学には短期大学も含まれ、学士、短期大学士以上を取得していることが求められますので、大学院も当然これに当たります。
この他、次のものも大学卒業と同等の教育機関として扱われます。
- 大学(短期大学を除く)の専攻科や大学院の入学に関して大学卒業者と同等であるとして入学資格が与えられる学校
- 短期大学卒業と同等である高等専門学校の卒業者
- 学校教育法施行規則155条1項4号に基づいて文部科学大臣が告示により指定する外国の教育機関と、これに相当する外国の教育機関の卒業者
以上が該当します。
海外の大学でも大丈夫ですが、日本と学校制度が異なりますので認められるかどうか確認が必要です。
大学と共に、「専門士」・「高度専門士」を称することができる日本の専修学校(専門学校)も学歴として認められます。ただし、大学等は海外のものでもOKでしたが、専門学校の場合は、日本で教育を受けた場合のみ認められるといった部分が異なっています。
「技術・人文知識・国際業務」専攻科目
学部や専攻科目は、外国人の方が就職後に働くことができる職務内容へ影響を与えます。履修した内容や、場合によって評価の良し悪し等、何をどれくらい学んできたか把握することは「技術・人文知識・国際業務」ビザにとって重要な項目となります。
科目は大きく分けると、文系分野(人文科学)と理系分野(自然科学)になります。
文系分野(人文科学)の例
語学,文学,哲学,教育学(体育学を含む),心理学,社会学,歴史学,地域研究,基礎法学,公法学,国際関係法学,民事法学,刑事法学,社会法学,政治学,経済理論,経済政策,国際経済,経済史,財政学・金融論,商学,経営学,会計学,経済統計学
理系分野(自然科学)の例
数理科学,物理科学,化学,生物科学,人類学,地質科学,地理学,地球物理学,科学教育,統計学,情報学,核科学,基礎工学,応用物理学,機械工学,電気工学,電子工学,情報工学,土木工学,建築学,金属工学,応用化学,資源開発工学,造船学,計測・制御工学,化学工学,航空宇宙工学,原子力工学,経営工学,農学,農芸化学,林学,水産学,農業経済学,農業工学,畜産学,獣医学,蚕糸学,家政学,地域農学,農業総合科学,生理科学,病理科学,内科系科学,外科系科学,社会医学,歯科学,薬科学
もちろんこれら以外の学部もあります。
「技術・人文知識・国際業務」実務経験
学歴ではなく、実務経験をもって申請することも可能です。
求められる実務経験が10年の場合
前述の学歴がない場合「技術・人文知識・国際業務」として在留ビザの申請が出来ないかといったら、そんなことはありません。就職後に働く職務内容と関連した仕事を10年以上行っていれば、実務経験として認められます。10年に満たなくても大学,高等専門学校,高等学校,中等教育学校の後期課程、専修学校の専門課程で関連した学歴があれば、実務経験年数に含めることができます。
ただし、実際に実務経験での申請の場面では難しい部分もあるのが実情です。本当にその期間、職場で働いていたかを立証するために以前の会社から在籍証明書などを取り寄せる必要が出てきますので、学歴で条件を満たす場合と比べ申請の難易度は上がると言えます。
求められる実務経験が3年の場合
前項に記載した条件以外にも「外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする分野の仕事」をするといった場合に、実務経験が求められます。
抽象的な表現ですので、具体的な職種で言いますと「広報,宣伝又は海外取引業務,服飾若しくは室内装飾に係るデザイン,商品開発その他これらに類似する業務に従事する」が該当します。
まったく同じ職種でなくとも良いのですが、関連する業務内容で実務経験は3年です。
ただし,この場合も大学等でこれらの業務に従事するのに必要な科目を専攻し,卒業した方や、日本の専門学校を修了し,専門士の称号を得た方であれば,実務経験は必要ありません。
また、同じく「外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする分野の仕事」とされる翻訳,通訳,語学の指導については、大学を卒業していれば実務経験が不要となります。
「技術・人文知識・国際業務」企業側の条件
続いて企業サイドから見た条件です。
「技術・人文知識・国際業務」職務内容
企業が外国人の方を雇いたいと思っても、「技術・人文知識・国際業務」の在留ビザの場合ですと、どのような仕事内容でも良いという訳では無く、職務内容に制限があります。
「学術的素養を基する業務」か、「外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする仕事」となり、その上で外国人の方の学歴や職歴と一定の関連性を持っていなければなりません。
また、関連性については大学等を卒業した場合、完全に一致するところまでは求められてはおらず、比較的幅をもった審査となっています。
一方、専門学校を卒業した場合は、関連性は狭く厳しい判断をされますので、業務に直結した技術・知識が求められます。
「技術・人文知識・国際業務」具体的な業種
学歴・職歴との関連する具体的な職種の例です。こちらは絶対的なものではなく履修科目の内容や、業務内容によって総合的に判断されます。
理系分野の職種
IT系エンジニア・コンピュータプログラマー・機械系/電気系の技術者・設計・研究職など
文系分野の職種
会計業務・総務・企画・労務管理・マーケティング・経済アナリスト・貿易業務など
外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする分野の職種
コピーライティング・広報・宣伝・海外取引業務・服飾や室内装飾のデザイン・商品開発・語学の指導・翻訳業・通訳業など
専門学校卒の職種
自動車整備士専門学校⇒自動車整備工場(タイヤ交換等のみはNG)
観光専門学校(ホテル学科専攻)⇒ホテルのフロント(通訳)
簿記・経理専門学校⇒財務・経理
など
「技術・人文知識・国際業務」外国人の方との契約
在留ビザ「技術・人文知識・国際業務」での申請は、外国人の方と企業との有効な労働についての契約が求められます。これは雇用契約に限らず、請負や派遣会社との派遣契約でも認められますが、審査では継続性や安定性も加味されますので、そのあたりをクリアにしておく必要があります。
「技術・人文知識・国際業務」外国人の方の給与水準
給与水準に関しては、他の日本人の従業員と同額以上であることが求められます。
基準に関しては、日本人従業員の方と同等の地位・技能レベル・経験等を比較して、同じ扱いとされていることが必要です。他に日本人従業員がいないケースもありますので、その場合は同一業種の平均的な報酬額を資料にて説明し、それを基に判断されます。
「技術・人文知識・国際業務」企業の経営状況
外国人の方を継続して雇用できる安定性を持つことが必要とされますので、企業規模や経営状況などが審査の対象となります。
企業規模については、「前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の源泉徴収税額を基準にして、カテゴリー1からカテゴリー4までクラス分けされます。カテゴリー1に近づくほど安定性・継続性があると判断されますので、申請の際は提出資料が少なく、審査期間も短い上に許可が下りやすいです。
企業、企業と書いてきましたが、個人事業やこれから事業を起こされる方も申請を行うことは可能です。説明する項目が増え、提出資料も多くなり、審査も厳しくなるといったことで大規模な事業者と比べるとハードルは上がりますが、条件さえ満たすことが出来れば許可をとることは可能です。
「技術・人文知識・国際業務」注意点
在留ビザ「技術・人文知識・国際業務」は、外国人の方の学術的素養と関連する職務内容の範囲内で働くことが条件となっていますが、その点について注意点がございます。
私の前職である小売業で、架空の例を挙げてみます。
外国人の方が日本の大学に留学していた。そこでは経営学を専攻し卒業見込みとなったので、小売業の会社への就職が内定した。このタイミングで職務内容を経営学の知識を活かし、本部でマーケティング職を行うとして「技術・人文知識・国際業務」の在留ビザで申請を行った。めでたく申請も許可されて4月に入社。この企業では入社すると、職種を問わず全従業員が現場研修として店舗業務を行うことになっている。外国人の方もこの例に倣い、顧客対応・レジ業務・商品補充・発注業務・価格管理・鮮度管理などを精力的に取り組んでいた。
と、ここまでは研修として一定期間の現場業務は認められていますので、研修期間が終わりマーケティング部門で本部勤務となれば何も問題はないのですが・・・。
問題は、人手も足りず良く働いてくれるので、研修後も店舗業務で勤務して貰いたいと考え、そのまま残ってしまうことです。
この場合「技術・人文知識・国際業務」の活動範囲から逸脱していますので、在留資格の取消や更新時の不許可、雇用している側にもペナルティが課される可能性もあります。
もし店舗勤務を行って貰いたいとお考えでしたら、在留ビザが「技術・人文知識・国際業務」以外に該当する方を選ぶか、「技術・人文知識・国際業務」から他の在留ビザへの変更を検討をする必要があります。
日本の大学卒+日本語能力試験N1で「特定活動46号」、日本人と結婚している「日本人の配偶者等」、永住者と結婚している「永住者の配偶者等」など、店舗勤務が可能な在留ビザはあります。小売業は現在認められていませんが、他の該当する業種であれば「特定技能1号」なども視野に入ってきます。
「技術・人文知識・国際業務」まとめ
在留ビザ「技術・人文知識・国際業務」について書いてきましたが、まとめてみますと、
「学術的素養を必要とする」又は「外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする分野」の職務内容で、関連する知識・技術を大学や専門学校等で学んでいるか、実務経験がある外国人の方と、安定性を持つ企業とが有効な労働契約を結び、その範囲で日本人と同等以上の給与で働いて貰う。
書ききれない条件等もまだありますが、これが在留ビザ「技術・人文知識・国際業務」となります。
申請の際は、外国人の方の法律違反が無いか、納税義務を履行していることや、入管法に定める届出の義務を履行していること等を、併せて審査されます。
申請については各ページにてご確認ください。